きしかなさん(30代前半・女性)
2021年11月に長男・橙矢さんを、
2024年4月に長女・柚芭さんを出産。
想いをつむいだ日:2024/4/23
こんにちは。
この手紙を読んでいる君たちは14歳になる頃かな。どんな風に成長しているのか、今からとても楽しみです。
今、ゆずが生まれて2週間。退院したばかりなのに、ゆずは意外と力強い。自分の力で起き上がろうとする足の力が本当に強くて驚いているよ。たまにじっと人の顔を見つめている姿に、なんて綺麗な目をしているんだろうと思っています。
ミルクを飲んで、ゲップをして、うんちをして、たくさん泣いて。ありのまま頑張って生きている姿に元気をもらい、癒されて、そこにいるだけでみんなを笑顔にしてくれるゆずが、とっても愛おしいです。
橙矢は、生まれたての頃はずっと抱っこちゃんで、くっついていないとすぐ泣く甘えん坊さんでした。今は2歳で、イヤイヤ期真っ盛り!自分の意思も強くなってきて、どんなことも「嫌、自分でやる〜!」と言って頑張っています。だけど時々「抱っこ〜」とお父さんに甘えて、可愛い姿を見せてくれています。
恐竜が大好きで、お父さんが買ってきた音の出るティラノサウルスのおもちゃで「がおー!」と叫びながら足踏みしているよ。「ゆずちゃん寝ているから少し静かにしてね」と言ってるんだけど、夢中になっているから全然聞こえないみたい(笑)いつもおばあちゃんのお部屋におもちゃを持っていって遊んでいるばあちゃん子。楽しそうにしゃべってふざけて爆笑させてくれる、おもしろくて優しい子です。
今日は、お母さんのおばあちゃんのところに初めてゆずを連れてきました。おばちゃんたちも来てくれる予定で、ふたりに会えるのをとても楽しみにしています。みんな橙矢とゆずをお世話してくれるので、お母さんはみんなに助けられつつ、この手紙を書いています。
手紙を書こうとすると想いがいっぱいになって、涙がボロボロ出てしまうよ。
命が生まれることは当たり前なんかじゃない。橙矢、ゆず、君たちに出会えたことは奇跡なんだよ。ふたりが生まれてきてくれたときのこと、お母さんはいつだって君たちの1番の味方でいることを伝えたくて、この手紙を贈ることにしました。
この命を守りたい
お母さんは、「不育症」といって赤ちゃんがお腹で育ちにくい体質でした。橙矢が生まれてくる前にも3回流産をしています。赤ちゃんができたと思っても、心臓の音が確認できるより前にいなくなってしまって。初めての妊娠で赤ちゃんの心臓が聞こえなくて手術をしたときは、すごく痛くて、悲しかった。その後もくり返し流産していて、お父さんと「赤ちゃんができなくても、2人で楽しく人生を過ごすことはできるし、それもありだね」っていう話をしていたくらいです。
だから、橙矢を授かって健診で初めて心臓の音を確認できたときは、本当に嬉しかった。それからは、次の健診で心臓の音が聞こえなくなっていたらどうしようとすごく不安な気持ちも抱えながら、日々を乗り越えていました。毎回健診を受けるのが怖くて、そして心臓の力強い音が聞こえるたびに安心していたんだよ。
不育症にもいろんなタイプがあって、どうして赤ちゃんが育たないのか原因がわからない人もいます。お母さんの場合は免疫疾患が原因だったので、毎日注射と投薬治療を続けることで流産を防ぐことができました。
お母さんの体は血液が固まりやすくて、血流が悪くなると赤ちゃんが育つことができなかったの。だから血液をサラサラにしてくれる注射を毎日2回打っていたんだけど、その注射が痛くって……!注射を二の腕やお腹、腿のような脂肪の柔らかいところに自分で打たなければいけなくて、しかも血をサラサラにしているから、出血すると血が止まらなくなることもありました。注射は大変だったけど、それでお腹の子が無事に育って生まれてきてくれるのであれば頑張ろうと思うことができました。
ゆずの妊娠がわかったとき、お父さんもお母さんもとても嬉しかった。同時に、無事に育ってくれるかな、またあの注射の日々を耐えなければいけないんだと不安な気持ちも正直感じていました。だけど、あなたに会いたい、この命を守りたいという想いで毎日頑張ることができたんだよ。
大丈夫、大丈夫
お父さんは、橙矢は男の子だから次は女の子がいいな〜なんて言っていて、ゆずの性別が女の子とわかったときはとっても嬉しそうでした。お母さんも、橙矢とお父さんで男同士の時間を、お母さんはこの子と女同士で一緒にいろんなところを旅したいな〜と想像したりして、生まれてくるのをとても楽しみにしていたよ。
ゆずを妊娠して5か月経った10月の夜、「お疲れ様でした」と仕事の電話を切った瞬間のこと。
パシャ!
「あっ!破水だ!」
とっさにそう思いました。急いで下着を確認すると、それは破水ではなく大量の出血。
急いで病院に電話して、お父さんに車で連れて行ってもらうことになったの。病院に向かう車の中でも血は流れ続けていて、「もうダメかもしれない……。ダメだったらどうしよう」と不安な気持ちでいっぱいのお母さんに、お父さんは「大丈夫、大丈夫」と声をかけ続けてくれました。
そして病院についてすぐに心臓の音を確認してもらうと、ちゃんと聞こえたんです。
生きてくれていた。本当によかった。
ゆずの心音を聞いて、心からほっとした。生きていてくれてありがとう。ゆず、あなたはとても強い子だよ。
それからは問題もなく、あまり構えずに出産に臨むことができました。それは、橙矢のおかげです。橙矢の妊娠中は、出産というものが怖くてネットでたくさん情報を集めたりしてて。だけどいざ出産を迎えてみるととてもスムーズで、陣痛から7時間ほどで生まれてきてくれました。
身体全身がドクンドクンと波打って、お腹から下に降りていく感覚を感じながらの出産。呼吸を整えて、力を合わせて、自然に生まれてくるんだ。橙矢が生まれるとき、そうお母さんに教えてくれたから、ゆずのときは肩の力を抜いて出産に臨むことができたんだよ。
命がつながっているんだな
ゆずの出産予定日から6日が過ぎ、健診に行くと、お医者さんから心拍が下がる瞬間があると言われ入院することになりました。内診で子宮口をグリグリ(出産を促すため)されたのでお腹が痛いなぁと思っていたら、夜中に自然と陣痛がやってきました。ああ、橙矢のときもこんな痛みだったな、痛いのいやだなぁと思いつつも、いよいよ会えるんだねとワクワクしていたよ。
出産に立ち会ってくれた助産師さんは、なんと橙矢のときと同じ助産師さんでした。「前のときも上手だったけど、今回も呼吸が上手だよ!」と言ってくれて、ゆずと呼吸があっているんだと嬉しかったなぁ。
お父さんも夜中の3時過ぎくらいに病院に駆けつけてくれました。早く会いたいな。そう思いながら呼吸に集中しているうちに、陣痛の感覚はすぐに10分、7分、6分…と縮まってきて、生まれるまではもうあっという間。最後にイキむタイミングが本当に痛くて、橙矢のときもこんなに痛かったっけ?っていうくらい本当に痛くて!思いっきりお父さんの手を握って爪を立てたり、噛みついたりして(お父さん、噛みつかれてちょっと笑いながら痛そうな顔していたよね。ごめん!来てくれてとても心強かった)最後は力を振り絞って産むことができました。
生まれた瞬間は、思わず「いらっしゃい、疲れた〜〜〜」と口に出して言っていたよ。お父さんは「出てきたよー!」と叫んでいて、よかったねって、2人で笑いながらゆずを迎えました。
生まれたばかりのゆずは橙矢にそっくり!さすが兄妹。ちゃんと命がつながっているんだなぁと感じたよ。途中危ないときもあったけど、五体満足で健康に生まれてきてくれてありがとう。本当に、本当に、それが何よりです。
ゆずが生まれてすぐはお腹もおっぱいもすごく痛くて夜も眠れないくらいだったんだけど、気持ちはとても穏やかで。早くゆずを連れて家に帰りたいな、橙矢とゆずを会わせるのが楽しみだなと思いながら過ごしていました。
ゆずが生まれたのは、桃源郷の桜と桃の花が一斉に咲いて、いろんないのちが芽吹いてくるのをぶわっと感じる季節でした。退院して家に帰るとき、桃畑を走る車の窓から感じる、暖かい陽気に春の風。虫やお花が一気に動き出してきた気持ちのいい季節に生まれてきた可愛い子に、どんな名前がいいかなと思いながら通ったのを覚えています。
お母さんは自然が大好きなので、自然に関する名前がいいなと思っていました。
橙矢は11月生まれなのでちょうどみかんの季節。「代々継がれる、家族を大事にする」という意味を持つ橙(だいだい)で「橙矢」。
柚の花言葉は「健康美」。出血もあったけど元気に生まれてきてくれて本当に感謝しているし、これからも健康で元気に育ってほしいという願いを込めて、「柚芭」と名付けました。
家族4人
家族が4人になって、橙矢は驚くほど成長しました。ゆずの出産で入院していた一週間の間に、体は大きくなって、上手に言葉が話せるようになっていて。お母さんがゆずを連れて家に戻ると、保育園から帰ってきた橙矢はお母さんよりも先に「赤ちゃん!」とゆずに駆け寄っていました。橙矢はまだ小さいから、妹ができることはわからないかもなと思っていたんだけど、ちゃんとわかっていて楽しみにしてくれていたんだね。なでなでしてくれたり、「ゆずちゃん大好き」って言ってくれたり、ミルクをあげてくれています。ゆずの寝てるベッドに乗って「橙矢も寝る」って寝てたりして。家族が1人増えて、慌ただしく賑やかになっている中でも、橙矢が優しくゆずを迎えてくれたことが本当に心強かった。すごいな、逞しいなと感じています。
だけどたまに「ゆずちゃんのかか〜」と言って、お母さんが取られたと思っているのか泣きそうになっていると、お父さんから聞きました。本当は大丈夫なわけじゃないんだよなと思って、そんな橙矢がすごくかわいらしくて愛おしいです。かか大好き〜と抱きついてくれるのが、お母さんのパワーチャージになっているよ。
お父さんは、橙矢が不安がらないように、寂しくならないように全力で遊ぶと言っています。男の子チーム、女の子チームに分かれて過ごすのもきっとすごく楽しいよね。4人家族でいるときのバランスもすごくいいなと感じています。それは、やっぱり、橙矢がゆずのことを受け入れてくれているからだよ。
思いっきり生きてね
わたしの大事なかわいい君たち!ふたりに出会えて、もうお母さんの人生はそれだけで楽しい未来に向かっていく!って確信しています。だって、毎日てんやわんやでおもしろすぎるから。ふたり並んで寝ている姿を見て、この子たちに出会えて嬉しいなといつも思っています。
橙矢が生まれて、ゆずが生まれて、こうして家族4人で暮らせていることは、当たり前のことなんかじゃない。妊娠することも奇跡だし、ちゃんとお腹で育ってくれることも奇跡だし、生まれてきてくれることも奇跡なんだよ。
出産はやっぱり命懸けというか、お母さんも全身のエネルギーを振り絞って叫んで、お父さんに噛みついて、自分も命であることを思いっきり感じながら、ちいさな命を産むことができて感動しました。このお母さん自身のエネルギーを、なんだかどうでもいいことに使うわけにはいかないなぁと、ふたりのおかげで気づくことができました。
だから、君たちも自分の命を本当にやりたいことや心動くものにたくさん使って欲しいです!
ふたりは日常の中で毎日新しい言葉を覚えたり、動きができるようになったり、できることがどんどん増えています。君たちの変化をみているのが、すごく新鮮で楽しいよ。
これから中学生、高校生、そして大人になってからも、今のふたりのように、できないことがふとできるようになること、たくさんあると思います。だから、最初からできないと決めつけないでどんどんチャレンジしてほしいです。お母さんは、全力で応援します。
どうすればそっちに向かえるのか、社会の常識にとらわれずにどうやって実現していくかを自分で考える。お母さんももがきながらしてきたから、君たちにもできるよ。そうやって自由に生きていけるから、ふたりともやりたいことを「やりたい」と声に出して、思いっきり生きていけばいいんだよ。
もし迷うことや悩むこと、苦しいことがあったら、話してほしいです。お母さんに言いづらかったら、お父さんでもおばあちゃんでもいいよ。君たちの味方は近いところにたくさんいます。その一番はお母さんだからね。
お母さんも人間なので、うまくいかなくてイライラしたり、泣くときもあります。これからも、たまに(?)怒ったりしているかもしれないけれど、それはふたりのことが嫌いだからじゃなくて、大好きの裏返しで心配したり、社会で生きていくために曲げちゃいけないと思うことがあるからだよ。どんなことがあってもおかあさんはいつでも味方であること、それは忘れないでくださいね。
一緒に知らない世界をたくさん見て、経験して、いろんな感情を共有できたら嬉しいです。そしてお母さんも自分の人生を楽しむ気満々だから、ふたりも自分のこれからの道をきちんと自分で選び取って楽しみながら生きていってください。大人になるって、できることがたくさん増えて意外と楽しいもんだよ。
ふたりがいてくれるおかげで、お母さんの人生はすごくすごく豊かで、暖かくて、何倍も楽しいものになっているよ!橙矢、ゆず、お母さんのところにきてくれてありがとう。これからも楽しく、家族みんなで生きていこう。
心からふたりを尊敬しているし、ずっと応援しています。
お母さんより
2024年4月23日
※この文章は、インタビューの内容をもとに執筆しています。